カメレオン俳優ならぬ
カメレオンデザイナー。
チーム一丸となってコンペに勝つ。

水田 智也
TOMOYA MIZUTA 2007年入社

「この仕事は、いろんな人にならなければいけません」
水田智也は、静かに丁寧に
言葉を選びながら話し始めた。
どういう意味だろう?

入社して5年の間に水田は
数多くの専門店の設計・施工業務を経験した。
飲食では、ラーメン、焼肉、アイスクリーム、お惣菜。
物販では、古着にメガネにアクセサリー、靴やバッグ、
ベビー用品、アウトドア用品の専門店もあった。
サービス系では、美容室に理容室、
洋服のリペアショップや
写真館など、挙げればキリがない。
「自分の好き嫌いに関わらず、それぞれのお店の空間を
当事者になって考えていきます。
いろんな人の立場になりながら空間をつくるのが、
私の仕事です」
時にクライアント自身以上に、
その空間のことを考え尽くす水田。
専門店の空間づくりに
百戦錬磨となりつつあった6年目。

新しい分野の仕事を任される。全国に約170店舗を持つ
住宅設備メーカーのショールームの案件だ。
水田智也のセカンドシーズンがスタートした。
北は北海道から南は山口まで、
全国の支店や営業所をまわり、
一つずつ丁寧にプレゼンテーションをして、
設計、デザイン、制作、施工を進めていく。
「同じメーカーのショールームなので、
見せるべきポイントは同じです。
むしろブレてはいけない。
一般のお客様にとって、
見やすくわかりやすい展示とは何かを大切に、
そのつど提案をしていきました。
地域性をプラスすることも意識しました」
いろんな人になる七変化ではなく、
同じキャラクターで
いながら場所に応じて装いを変えてみせた。
はじめはやや苦戦するも、1年、2年、3年と
着実に実績を重ね、そしてついには本丸に至る。
「大阪本社併設のショールームをまかされた時は、
嬉しかったです」

そして今、水田はサードシーズンの真っ只なかにいる。
チームを率いて、商業施設など大型プロジェクトに
取り組む案件が増えている。
最近では、とある駅ビルの商業施設のコンペにおいて
10人以上のチームを組んで臨んだ。
規模が大きかったうえ、プレゼンテーションまでの
スケジュールが非常にタイトだった。
「まず全員で現場調査に行きました。自分たちの目で
直接リサーチすることはもちろんですが、
地元の人のリアルな声が欲しかったので、
街頭アンケートを行い250人以上から声も集めました。
アンケート結果や開発本部の調査をもとに、
売り場全体の構成、具体的な店の顔ぶれと並び、
共用部分のデザイン、駅という街の玄関口で地域性を
どう出すべきかなどを練り上げていきました。
コンペ案件は費用も重要です。
具体的なデザインを固めた後には、
営業部による各パートナー企業さんとの
見積もりのやりとり、
プロジェクト全体の予算を
どのくらいに収めるのが妥当なのかなど、
シビアな数字調整が続きました。
上司や部下、開発本部、営業部、コンサルタントなど、
プロジェクトメンバーそれぞれが全力を出し切った
全員試合でした」
チームはコンペを勝ち取った。
かつて、たくさんの専門店を手がけていた経験、
数々のプレゼンテーション、
これまでのキャリアが存分に発揮された。
そして水田のキャリアには、
チームで大きなものを勝ち取っていくという
素晴らしい経験が加わった。
「大規模案件のチームには多様なアイデアが必要です。
同じような考え方の人だけではなく、
今後も個性的な発想を
持つ人が集まっていけるといいなと思っています」

そんなビッグプロジェクトの話と同じ、
もしくはそれ以上に嬉しそうに水田が語ってくれた話が
もうひとつある。
当時入社1年目の田中俊平と
2人で手がけた展示ブースだ。

「ちょうどいいサイズの展示の案件があって、
田中くんに声をかけてみたら、
やりたいと言ってくれたので任せることにしました。
最初にアイデアを出し合った時に彼が
20 くらいのデザイン案を持ってきて、
そのなかにキラリと光るものがあったんです。
それを見た瞬間にこのプロジェクトは成功する、と
確信しました」

そんな水田の想いとは裏腹に、
田中は初めてのことだらけの仕事に無我夢中だった。
「凄まじかったです。
提案するまでに2回くらい泣きそうになりました。
完全にキャパオーバーでした……。
水田さんは自分がやってしまえば
あっという間のことなのに、
粘り強く見守ってくれて。
おかげで普段の業務では経験できないことを
たくさん味わうことができました」

「自分では思いつかないものを
田中くんが持ってきてくれた。
一緒にやれてとてもよかったです」

水田は再び静かに言う。
「私は自分で何か強い個性を
持っているとは思っていません。
入社以来、私はずっと
勉強させてもらっているばかりで、
なかなか会社に恩返しもできていません。
会社は入ってみないとわからないものです。
入る前には、こんなにたくさんのことに関われるとは
思っていませんでした。
外から見えない魅力がいっぱいあります。
これからも勉強しながら、スペースの力の一部になって
空間づくりを続けていきたいと思います」
個性はなかなか自分では見えづらいが、
個性を引き出し合う場がここにはある。

スペース社員のある1日の
スケジュールをのぞいてみる

PRIVATE

結婚の記念に妻が贈ってくれた
ユンハンスの腕時計を肌身離さず。
現場ではガツンガツンぶつけてしまっていて……申し訳ない。
岡山のプロジェクトで
デザインを考えていた時には焼き物も物色。
備前焼のこの火襷(ひだすき)模様がヒントになりました。
入社1年目にフードコートの
焼きそば店の「釜の部分」を任され、
釜だけでなく店舗全体を考えて提案した思い出のスケッチ。
手がけたプロジェクトが完成すると
家族で出かけることも。
広島のLECTでは子どもが遊び場を気に入って半日以上いました。

水田 智也/ TOMOYA MIZUTA

2007年、大阪本部入社。飲食店、専門店、
サービスショップ、展示ブースに携わる。
6年目、ショールーム改修で全国行脚が1度目の転機。
10年目、2度目の転機で以来、
大型商業施設などコンペ案件に奔走。
滋賀県大津市出身。
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